働くことにまつわる諸事に関心を持っていますが(国家資格キャリアコンサルタントだし)、中でも人材育成については関心高めです。
このカテゴリでは、福祉職場における人材育成、教育研修について考えていきます。
この記事では、福祉職場における人材育成、教育研修の必要性についてまとめました。
はじめに
私は20年ほどメディア制作に携わった後に福祉に転職しました。その最初の職場は、人材育成や研修・教育という点では最低レベルの事業所だったように感じています。
しかし、研修の理念や担当者が不在であるなどのことから、どうやら多くの現場で、計画的・体系的な人材育成は推進されていないようです。
第11次職業能力開発基本計画によれば、
- 新型コロナウイルス感染症による様々な影響
- コロナ禍で益々進む、デジタル技術の社会実装の進展
- 労働市場の不確実性の高まり
- 人生100年時代の到来による労働者の職業人生の長期化
などで、労働者を取り巻く環境は大きく変化していきます。
他の業界と同様、福祉においても人材育成は益々重要となるでしょう。しかし他の多くの業界と異なり、その目的は利用者満足、クライエント(利用者)の権利や利益を守るため、を第一義と考えたいのですが。
福祉の職場で活用できる、福祉人材育成方法論の構築を試みるにあたり、キャリアの視点を取り入れ、福祉職員の主体的なキャリア形成を支援する、福祉人材育成について考察したいと思っています。
福祉職場における人材育成、教育研修の必要性
福祉職場における人材育成・教育研修は、次のような観点から、福祉業界全体として職員の質向上方策のあり方について、具体的な方法論や方策が必要だと考えます。
サービスの質の観点から
福祉・介護ニーズは多様化・複雑化しており、サービスの質を確保するためには、従事者の確保と共に、専門性の向上を図ることが求められます。
介護では重度の認知症や要介護度の高い高齢者へのケアやターミナルケアを担い、障害者福祉ではそれぞれの障害特性に対応して支援するなど、専門性の高い職種であるにも関わらず、特に人の出入りが激しい事業所では未熟練の職員に依存する形となってしまい、その育成は大きな課題です。
利用者の多面的なニーズに対応した質の高いサービスを実現するためには、
- 体系的な外部研修による段階的な継続教育のシステム
- キャリア形成に資するシステム
- 有資格者を基本(無資格者に対しては資格を取得させることを前提)とする研修体系
- 職能別の能力開発と福祉・介護分野に共通する能力開発の2つの要素を組み合わせた研修体制
- キャリア形成に役立つ共通教育内容に基づく研修
の5つが必要であるとされています(全社協 2011 )。
特に、4番目「福祉・介護分野に共通する能力開発」は、福祉・介護サービスの原則であるチームケア及び職種間の連携の観点から、良質なサービスを効果的・効率的に提供するために必要不可欠。
福祉職場は、各専門職が職能別の能力と、チームのメンバーに共通して求められる能力を獲得できるよう、キャリアパスを構築し、人材育成を行っていく必要があると考えます。
利用者の権利性の確立の観点から
福祉・介護サービスは、人を媒介として提供されます。その「人」を育てる方法論が確立しておらず、方策が未整備であるということは、福祉サービスの質の低下につながる可能性があり、利用者のQOLに影響を及ぼすことが考えられます。
福祉・介護サービス事業所は本来、利用者満足・従事者満足・経営者満足、を実現しなければなりません。しかし、時間とお金が限られている現状では、経営者満足が優先されることも考えられます。
個人の尊厳の保持、自立支援、個人が選択していく福祉という、利用者の権利性の確立は、援助活動を通して実現するものであり、それを可能とする職員の資質が前提となります。
福祉・介護サービスには、従事者である人を通して提供されるという特性があり、その質の向上は、担い手である従事者の専門教育・自己教育によって初めて高まります。
つまり、利用者のQOLを高めるためには、福祉・介護サービスの質向上が目指されなければならず、それを支えるものが人材育成に他なりません。
職員定着、経営の観点から
職員の定着は事業所の安定的な運営に欠かせず、経営の観点からも人材の定着は重要です。
健全な運営及びサービスの質向上のため、組織的な取り組みが必要と言えます。
福祉、特に介護の分野では恒常的な人材不足に悩む事業所が多く存在していて、新規に採用した人材を即戦力として期待せざるを得ないという事情があります。
ところが介護職として働く人の多くは中途採用で、福祉職以外の職種から転職した者が多くを占めます。そして離職者が相対的に高く、約7割が入職後3年以内に離職してしまう(離職理由は「結婚・出産」「人間関係」「収入」等)(2015年1月27日第3回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会資料)。
いったん入職した人の定着促進を図る必要が、大いにあるのです。
東京都が2011年に策定した「社会福祉施設における人材育成マネジメントガイドライン」では、福祉人材育成を取り巻く環境について、人材育成方針の不明確さにより、人材育成機会の減少、職員の人材育成機会へのモティベーションの低下、人材育成ノウハウの散逸が起こり、それが職員の定着率の低下や満足度の低下につながり、サービスの質が低下すると整理しています。
こうした背景から、人材育成を施設の健全な運営及びサービスの質の向上のための取組の一環と位置付け、短期的な即戦力の養成としてだけではなく、中長期的な組織基盤の構築のための方策と捉え、職員のやりがいや仕事を通じた成長の実現を後押しするため、キャリアパスに沿った人材育成システムを構築し、人材育成方針の見える化を進めていくことが必要である、としています。
終わりに
私が以前勤めていた事業所の社長(株式会社でした)に投げつけたい言葉の数々。
思い知れ!
恥を知れ!
という私怨はさておき。
今後も福祉職場における人材育成、教育研修について考えていきたいと思います。